4年に1回開催される国際数学者会議が22日からスペインのマドリードで始まり、社会に大きな影響を与えた数学者を顕彰するために創設されたガウス賞の第1回の受賞者に京都大の伊藤清名誉教授(90)が選ばれた。伊藤氏は、60年以上前につくった確率解析の理論が、金融の分野でデリバティブ(金融派生商品)の価格決定の方程式に応用され、「ウォール街で最も有名な日本人」と注目された。
また、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞には、100年来の数学の超難問の一つ「ポアンカレ予想」を解決したとされるロシアの数学者グレゴリー・ペレルマン氏(40)ら4人が選ばれたが、ペレルマン氏は受賞を辞退した。
他のフィールズ賞受賞者は米プリンストン大のアンドレイ・オクニコフ教授(37)、米カリフォルニア大ロサンゼルス校のテレンス・タオ教授(31)、パリ南大のウェンデリン・ウェルナー教授(37)。コンピューター科学の研究者に贈られるネバンリンナ賞は米コーネル大のジョン・クレインバーグ教授(35)が受賞した。
ガウス賞の第1回受賞者になった伊藤清さんは、三重県に生まれ、東京大理学部数学科を卒業した。
授賞理由は、水の分子運動などの自然界のランダムな動きを数式で表す確率微分方程式の創始だ。この理論は、内閣統計局に勤めていた戦時中の1942年、わら半紙に謄写版刷りの数学者仲間の「サークル誌」に最初に発表した。戦後は英語論文にしたが、当初はあまり評価されなかった。
その後、名古屋大助教授を経て京大教授に。さらに、米国のプリンストン高等研究所などでの研究活動を通じ、独創的な「伊藤の公式」が工学や生物学などに応用できると知られるようになる。注目が集まったのは、80年代、株価や為替の動きを数式で予測しようとする金融工学で応用されるようになってからだ。
97年、デリバティブ(金融派生商品)の理論で米国の2氏がノーベル経済学賞を受けた。授賞理由の「ブラック・ショールズ方程式」は「伊藤の公式」が土台になっている。当時、伊藤さんは「ウォール街で最も有名な日本人」と言われた。
小林孝雄・東京大教授(金融システム理論)は「金融工学のほとんどが伊藤先生の理論を基礎にしていると言ってもいい」という。
77年度に朝日賞、2003年に文化功労者。
今年から新しく設けられたガウス賞は、ビジネスなど社会に与えたインパクトの大きさが選考のポイントだ。伊藤さんの理論の波及効果は、新賞のイメージにぴたりとはまったようだ。
病気療養中の伊藤さんは「ともに数学の研究にいそしんできた仲間はもちろん、私の想像を超えた領域にまで成果を応用された方々とも、喜びを分かち合いたい」と文書でコメントした。
高橋陽一郎・京大数理解析研究所長は、「伊藤先生は純粋に数学として、原理を追究した。戦争は嫌いで、経済戦争も好きではない。先生の理論が、その武器になっていることについては、潔しとされないところもあるのでは」と心境を推し量った。
(朝日新聞)
「馬鹿でもなれる理学博士」としばしば揶揄されるが、数学は違う!
もちろん数学で博士号をとることは大変なことである。なかなかとれないらしい。
文化系・理科系なんてカテゴリーがあるが、そんな境界の狭間にあって
あらゆる学問に通じて基礎を成している点において
哲学者や数学者は「学者」と呼ばれる存在に最も近い位置にあるのだと思うのです。